第5章:分岐点
走りながら、美咲との間に交わされる言葉は少なかった。肺を焼くような煙と、ほこりが空気を支配していた。しかし、私たちの間の絆は、言葉を超えたものがある。それは共有した苦難と、それに対抗するための共同の意志に基づいていた。
美咲の手が私のものをぎゅっと握る。彼女の目は前を向いていて、その視線は未来への窓のようだった。彼女には自分自身を守る力がある。私たちはそれぞれ独自の力で生き延びてきたが、今は互いが必要だった。一緒にいることで初めて、生存の確率が高まる。
街の中心部を抜けると、崩れたビルの壁に作られた隠れ家にたどり着いた。私たちは息を潜めて、安部たちの一団が去るのを待った。息をするたびに喉は乾き、肺はひりひりと痛んだが、少しでも体力を温存する必要があった。
「瑛太、これからどうするの?」美咲の声は小さく、しかし冷静だった。
私は頭の中で計画を練り直す。安部たちは確実にデータを求めており、彼らがその価値を知っている以上、安全は保証されない。
「まずはこの街を離れる。データが安全な場所にあるならば、私たちは次に何をすべきか考える時間ができる。遠くの自治区に連絡を取り、援助を求めるべきだ。」
美咲はうなずき、その眼差しは新たな決意に満ちていた。「そして、このデータが何を意味するのか、正しく世界に示さなければ。」
私たちは暫定的な安全を得たが、休息は短い。私たちの運命は、ひとつの小さなデジタル情報にかかっている。それは震災後の荒廃した世界における新しい望みであり、同時に、新たな争いの火種でもあった。
夜が更けると共に、私たちは再び隠れ家を出発する。この世界にはもはや法律はなく、各自が自分のルールを作り、自分の正義を信じて生きる。強いものが支配し、弱いものは隅に追いやられる。しかし、私たちはそのような世界を変えたいと願っていた。
外は静かだが、それは危険の前触れかもしれない。美咲と私は、破壊された市街地を慎重に移動し、進む方向を定めた。廃墟の中で、私たちの足音だけが、新しい世界への希望の鼓動のように響いていた。
第五章の終わりには、私たちは再び分かれ道に立たされていた。私たちの行く手を阻むのは、安部と彼のギャングか、それとも、さらなる未知の危険か。美咲と私の選択が、これからのストーリーを形作る。