“Resonance of Ruins: Afterquake Amore”  第8章

小説

第8章:交換

安部は地面に押さえつけられ、息を荒げていた。わずかながらの勝利感が、廃墟の寒さに混じって体を満たす。美咲は警戒しながらも安部の傍に腰を下ろし、僕はその手に細心の注意を払っていた。彼が反撃する余地を与えてはならない。

「話せ、避難所はどこだ?」美咲の声が厳しい。安部の視線は泥だらけの地面を這い、やがて僕の目と合った。

「…南にある大学だ。そこはまだ安全だと聞いた。ギャングたちも手出しをしていない。」安部は敗北を認めるかのように、僅かに頭を下げた。

「何故、ギャングは手を出さないんだ?」僕の問いに、安部は苦笑いを浮かべる。

「そこには”彼”がいるからだ。彼は…昔の警察の人間で、今はその地域を統率している。彼と交渉できれば、食料や水の心配はなくなる。」彼の話には重みがあった。この無法と化した世界で秩序を保っている者がいるとは、一筋の光のように思えた。

「なら、その”彼”とはお前か?」美咲が尋ねると、安部は苦笑を深めた。

「いや、俺はただの情報屋だ。生き延びるために必要なことをしているだけだ。」安部の口調には、生存のための諦念が滲んでいた。

僕たちはそれ以上、安部から情報を引き出すために問い詰めることはなかった。彼を解放し、約束通り、僅かながらの食料を分け与えた。安部が立ち去る前に、彼はふと振り返り、もう一度僕たちを見た。

「気をつけろ、高橋。この世界はお前の知っているものとは違う。人は変わる。そして、お前もまた…」

彼の言葉を胸に刻み、僕と美咲は炎を囲む暖かさを離れて再び暗闇の中へと歩き出した。避難所を目指す道は遠く、険しい。だが、僕たちはお互いを信じ、少しでも昔の世界に近づこうとしていた。

南へ向かう道路には危険が伴う。ギャングたち、荒廃した町、そして予期せぬ出会い。だが僕たちは進まなければならない。大学にたどり着けば、一息つけるかもしれない。そう信じて、美咲と共に歩を進める。

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