部屋番号404の呪い ①

怖い話

桜木荘に越してきたその日、空気は湿っていて、古ぼけた壁は妙に冷たく感じた。3階の私の部屋には狭い階段を上がって、荷物を抱えながら息を切らせて辿り着いた。ほっと一息ついたその時、目に入ったのが、通路の果てにある壁に塗り固められた部屋番号「404」のスペースだった。不動産屋の高木さんが、何も言わずに渡した鍵束には、その番号は含まれていなかった。

「管理人の佐藤さん、あの部屋は…?」初対面のあいさつがてら訊ねてみたものの、彼は一瞬顔をしかめ、言葉を濁した。

「昔の話でしてね。今はもう部屋としては使っておりませんよ。」

何か隠された過去があると直感した。隣の部屋の小野寺さんは、美智子と名乗り、気さくに会話を交わしたが、「404のことは、あまり根掘り葉掘り聞かない方がいいわよ」と忠告してくれた。彼女の目は一瞬だけ、深い闇を隠しているように見えた。

夜になって、私は気になって眠れなくなり、静かな廊下を歩いて「404」の壁の前に立った。すると、ぼんやりとした不快な感覚に包まれた。壁からは、微かに、けれど確かに、何か生物が動いているような音が聞こえてきた。ぞくりと寒気がした。

翌日、気を取り直して地元の図書館に向かった。何か手がかりがないかと思い、住所の履歴を探っていると、河合さんと名乗る図書館員が声をかけてきた。彼は、アパートの歴史について興味を持っているようだったが、口を割ろうとはしなかった。

「過去は過去。あまり掘り返さないことですよ。」

しかし、私の心は既に動き出していた。なぜなら、それは単なる好奇心ではなく、私が「桜木荘」に引っ越してきた本当の理由と直結していたからだ。私にはこのアパートとの奇妙な繋がりを感じていた。

数日間、壁の音は一段とはっきりと耳に入るようになり、私はある計画を立てた。管理人が見えない深夜に、私は壁に耳を澄ませた。音は、まるで壁の中から誰かが私を呼ぶようだった。だがそれは、生きている者の声ではない…まるで遠い記憶や、存在しないはずの囁きのように。

翌朝、不安定な眠りから覚めると、しおりが私の足元で鳴いていた。彼女もまた、この場所におかしな空気を感じ取っているのだ。階下で会った美智子さんは、私の顔色の悪さを心配してくれたが、私は笑顔でごまかした。

それからの日々、管理人の佐藤さんが廊下を掃除する音、図書館員の河合さんが教えてくれたこの町の歴史、美智子さんから聞いたゴシップ話。それら全てが、私を「404」の真実へと近づけていた。

そして、ある日の夜。私は壁から聞こえる声に従い、ついに真実にたどり着いた。それは私の予想を遥かに超える、桜木荘の忌まわしい秘密だった。私が知るべきではなかったかもしれないが、もう後戻りはできない。なぜなら――

桜木荘の「404」の真実に辿り着いた夜、全ては曖昧な線でつながっていた。私は廊下の奥、彼の壁に触れると冷たい壁が僅かに震えた。静寂を切り裂くように、壁の中から繰り返し叩く音が響いていた。まるで心臓の鼓動のようだった。

管理人の佐藤さんは知っていた。そして図書館の河合さんも、隣の美智子さんも。彼らは誰もが「404号室」の秘密を抱え、それぞれの理由で沈黙を守っていたのだ。

ある夜、壁からの音が突然止んだ。代わりに、小さな紙片がドアの下から私の部屋へと滑り込んできた。くしゃくしゃにされた紙には、曖昧な字で「助けて」とだけ書かれていた。それが始まりだった。

次の日、管理人に聞こうと決心して彼の部屋を訪ねると、彼は何かを隠すように慌てふためいた。彼の目は、それまでになく真剣な焦りを隠していた。一度だけ、低い声でこう言った。「あなたは知らない方がいい。」

でも私にはもう遅かった。知ることは生存の本能となっていた。私は図書館の古い新聞の切り抜きを発見し、10年前にこのアパートで起きたとある家族の悲劇にたどり着いた。404号室はその舞台だったのだ。一家は謎の火事で亡くなったとされていたが、その中でただ一人、小さな子供の遺体が見つからなかった。

その日以降、アパートの廊下に立つと、いつも肌寒く、耳を澄ますと、壁の中から聞こえてくる子供の泣き声のような音がする。私の理性は、これがまぎれもない現実ではないと告げていた。しかし、心のどこかでは、この部屋に隠された何かが私を呼んでいると感じていた。

私は最後に一つの決意を固めた。壁の中に何があるのか、その目で確かめなければならないと。そして、夜更けに私はハンマーを手に取り、壁を壊し始めた。打ち続けるうちに壁からは埃が舞い上がり、そしてついに中から何かが落ちてきた。それは…

子供の古いぬいぐるみだった。埃っぽくて、片目がなくなっている。そして、その背後からは小さな隠し扉が現れた。ゆっくりと扉を開けると、長い間閉じ込められた空気が漏れ出してきた。そこには…


この段階で、震える手で扉を開ける主人公の感覚を描きます。部屋の秘密、そして、そこから解き放たれる過去の真実と現実の交錯する瞬間を高めることで、読者には想像力を掻き立てられる余地を残すのです。そして、この秘密が明らかになることで物語の次の展開につながるわけですが、その詳細は次の章で明かされることとなります。

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