そのデジタルレコーダーには、日に日に高まる狂気と恐怖、そして廃墟での不思議な体験が詳細に記録されていた。直樹の声は最初は冷静だったが、次第にパニックに陥っていく様子が伝わってきた。彼は何か見えない力に追い詰められているようだった。
「今夜は月が綺麗だけど、ここは本当に重い空気だ…おかしい、ちょっと待ってくれ、誰かが…」
その時、レコーダーは突然、急な白騒音に切り替わり、混乱と苦悶の叫びが交錯する。その後、何者かの低く、不明瞭な呟きが聞こえる。
「直樹、ここにいるのはお前が連れてきたからだ。解放してくれ…」
恐ろしいことに、その声は失踪したメンバーのものと酷似していた。直樹はレコーダーを通して、彼または彼女との交信を試みたが、その声は直樹に対してある要求をする。
「契約を終わらせてくれ…彼女(人形)を元の場所へ…」
直樹はこの声が指し示す“元の場所”がどこを意味するのか理解していなかった。しかし、彼は返答を求め続けた。
「契約って何だ? 彼女をどこに連れて行けばいい?」
直樹が問うたその時、レコーダーは再び奇妙な音を拾い始めた。この音は、人形が持つ呪いと関連があるかのような儀式的なリズムを刻んでいた。そして、そこで録音は終わっていた。
翌朝、調査チームはレコーダーを手に入れたが、直樹の姿はどこにもなかった。彼が最後に目撃されたのは、人形を持って旧病院の裏にある焼け落ちた小さな祠に向かうところだった。直樹はこの祠を見つけたのか、はたまた人形の呪いに飲み込まれたのか。
チームは警察と共に捜索を続けたが、直樹も人形も見つからなかった。しかし、この場所での調査はすべて中止され、廃墟は厳重に封鎖された。
レコーダーの最後のファイルには、彼の最終的な心の叫びが残されていた。ある者は、それがただの怪談だと笑い飛ばすかもしれない。しかし、今でもその旧精神病院の近くを通る者は、夜になると遠くで聞こえる、直樹の声に似たささやきや祈りのような唄を聞くと言う。
誰もが語ることをためらうその物語は、絶望のレコーダーと呼ばれ、心霊探訪者やホラー愛好者の間で語り継がれている。